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1年ぶりのIRの裏話シリーズ!第6弾です。
東証一部上場企業でIR担当を経験し、株主総会の運営にも携わっていた私が、「株主総会の平日開催」について語っていきます。
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カラス
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(カラスってサラリーマンだったんだ…)
今年はコロナの影響で、株主総会の開催規模を縮小している会社が多いですね。
それを抜きにしても、株主総会というのは平日の昼間に開催されるのが一般的で、土曜日や日曜日にやっている会社というのは本当にごく一部という印象です。
となると、仕事があって「行きたくても行けない」という株主にとっては少し不公平なように感じます。
もっと土日開催の会社があってもいいのでは?と思いますが、そこには株主総会ならではの平日でなければならない理由と、IR担当の本音があるんです。
株主総会はなんで平日ばかりなの?個人株主の事を考えてないの?同じ日に開催日が集中するのはなぜ?今回は、こんな感じの事を語ってみます。
この記事はあくまで裏話であって、会社公式のものではありません。ですので、「どの会社のことかな?」など詮索することはご遠慮ください。
株主総会の開催ルール
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株主総会っていうのは、会社法っていう法律で開催が決められている超重要イベントです。
会社法では、決算が終わったら一定期間のうちに開催するように、としか定められていませんが、定款で「決算から3ヵ月以内に開催」としている会社がほとんどです。
日本は3月決算の会社が多いので、自然と6月が株主総会シーズンになってきます。
3月決算の会社の決算発表が5月にあったとして、そこから株主総会までは少し時間が空くのですが、税金の処理だったり、必要書類の準備、議決権の収集、開催準備など裏では様々な手続きが必要になっていて、なんだかんだ6月の終わりごろの開催になります。
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最大の理由は「開催場所の確保」
そんなわけで、そもそも株主総会というのは開催時期が重なりやすいのですが、そうなってくると大変なのが開催場所の確保です。
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株主総会というのは何百人~何千人の株主が出席する大規模イベントです。しかも、会社の1年間を株主様にご報告してご意見を賜る大事な会ともなれば、場所選びは超大切。
絶対にしょぼい会議室なんかではできません。
小さい会社などでは自社の会議室で行うこともありますが、ほとんどの会社はホテルのホールや大型の会議室を借りて開催しています。
しかし!
ホテルの大ホールでイベントをやりたい団体はほかにもたくさんあります。土日は様々なイベントで日程が埋まっており、1年前から予約でいっぱい、なんてこともザラなんです。
それに、株主総会シーズンの6月は結婚式シーズンとがっつり重なっているので、本当に会場が押さえられない…。
また、3月決算の次に多い9月決算の場合、12月が株主総会の時期になるのですが、年末はそれこそ1年を締めくくる各種イベントで会場の予約は埋め尽くされています。
そんな物理的な理由もあって、会場の確保に支障がない平日に株主総会を開催している会社は多いはずです。
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とはいえ、2~3時間の会場費だけで数百万円かかりますからね。やはり株主総会ってすごいイベントです。
ちなみに、私がIRをやっていたとき、一度だけ開催場所を変更したことがありました。株主の出席人数が増えてきたので、キャパを広げようかという話になって。
⇒株主数がなぜ増えたのか?その真相は「IRの裏話⑤」で語ってます
そのときは、平日とはいえ会場は限られているので、1年前から会場を2箇所予約しました。そして、株主数の増減なんかを見ながら最終決定した感じでしたね。
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個人株主の多くが年配者
今でこそ、株主の年齢層は幅広くなり、いわゆるサラリーマン株主という人たちも増えました。株主優待目的の主婦株主も、ここ数年で急増した印象です。
でも、ほんの十数年前まではネット証券も普及していなくて、株も電子化されずに紙の株券で売買していました。今のように気軽に投資をするスタイルは定着しておらず、退職金などまとまったお金を投資するのが普通で、「株主=リタイアした年配者」だったんですよ。
となってくると、ご年配の方々にとっては株主総会が平日の昼間に開催されても何も問題がないわけです。
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そして、今も60歳以上の個人株主の割合は多いままです(会社によるとは思いますが、昔から上場している会社はこの傾向が強いですね)。
個人株主への配慮は忘れていませんが、このように平日開催でも問題ない人たちが多い、というのは日程変更しづらい要因になっているのかなと思います。
機関投資家の存在
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機関投資家というのは、証券会社や投資会社などビジネスとしてうちの株式を持っている人たちの事を言います。
こういう株主は、その会社の営業マンや担当アナリストなんかが株主総会に出席するので、平日のほうが都合が良いんです。
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ってのはちょっと冗談で。あえて優先しているわけではないんだけど、やっぱり考えちゃうよね。
土日開催に変更したところでクレームがくるわけではないと思いますが、こういう人たちも出席しているんだ、ということは、IRの頭の片隅にあるわけです。
社員が多く参加している
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カラス
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株主総会って、それなりに大きなイベントですからね。
当日は、私のようなIR担当としてメインの運営、議事進行をお手伝いする社員だけでなく、受付業務、会場整備、道案内係り、当日の設営・片付けなどなど普段はIR業務をしていない社員にも手伝ってもらっています。
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私たちIR担当が、自分たちの仕事で休日出勤をするならば大きな問題はないんですけど、他の部署のスタッフさんたちをわざわざ休日出勤させるとなると…いろいろと社内調整が大変なんです。
携わる社員が多い、という点も、株主総会を平日に開催している大きな理由の一つです。
社外の多くの人に支えられている
他にも、株主総会の運営には多くの社外の人たちに支えられている部分があり、そういう人たちに負担のない日程を、という配慮もあります。
社外役員
普段は取締役会ぐらいでしかお見掛けしない社外役員の方々にも、株主総会では一堂にお集まりいただきます。
社外役員は、普段から忙しい人が多く、他の会社の役員を兼任している方も多いです。臨時の取締役会などでもスケジュール調整が難航するほどなので、必ず毎年同じ時期の日程を空けておいてもらえるようにお願いしています。
そのため、突然「今年は土曜日に開催します!」ってしづらいんですよね。
顧問弁護士や監査法人
必ず来てもらうわけではないのですが、その年の業績が悪かったり、株主総会が荒れそうな事案があるときには来てもらうことがあります。
この方たちも、通常の営業日は平日ですので、お休みの日にわざわざ来ていただくとなるとちょっと悩ましかったりします。
信託銀行
株式事務をお願いしている信託銀行の担当者が、当日、議決権の集計を手伝ってくれています。また、株主総会の議事進行が滞りなく終わるかどうか、念のため会場の外で待機してくれています。
警察
開催規模が大きい会社や、総会屋と呼ばれるような問題株主がいるときには、地元の警察にお願いをして来てもらっています。警察が出動するようなことにならないのが一番ですが、いてもらえるだけで心強い存在です。
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こんな感じでたくさんの方の力をお借りして株主総会は成り立っているので、この方たちが協力しやすい日程がいいじゃないですか。
とはいえ、土曜日開催だから警察が協力してくれない…とかはないと思うんですけどね。
総会屋と集中日
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総会屋って、もうほとんど聞かないですよね。どっちかっていうと「物言う株主」のほうが今っぽいかも。
私も経験が少ないんですが、「総会屋」とはいわゆるクレーマーで、株主総会を荒らすことを目的としているそうです。
そういう総会屋の人たちを、なるべく出席できないようにするために、開催日を他の会社とあえて同じにして対策していた時代がありました。これが、株主総会の「集中日」です。
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以下の画像は、東京証券取引所が公表している株主総会の集中率を表したグラフです。
(引用元:東京証券取引所「2020年3月期決算会社の定時株主総会開催日の集計結果について」)
3月決算の会社についての集計になりますが、一時は95%も集中していた日程が、2020年は32.8%とかなり減少している(分散している)のが分かりますよね。
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東証一部上場企業のうち、2020年3月期決算の会社は1,460社ありますが、このうち株主総会を土日に開催したのはわずか17社(1.2%)でした。
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これまでの歴史だったり、お金や人などの色んな理由があって、株主総会を土日開催をする会社が少ないのが現状です。
IRの本音「それって効果あるの?」
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もし株主総会を平日から土日に日程変更することになったなら、会場費用も高くなるでしょうし、社員の休日手当も必要になるなどお金が余分にかかってきます。
多くの人との調整もしていかなければなりませんから、IRからすればかなり面倒くさい作業です。
そこまでして、株主総会を土日に開催する効果はあるのか?と考えてしまうわけです。
個人株主が増えてくれたり、安定株主が増えるのであれば、実行するに足る施策といえます。
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もちろん、土曜日などに開催して喜ぶ株主がいるのも承知しています。それでも、お金と労力をかけて得られる効果が少なすぎるんです。だったら、これまでどおり平日でも問題ないよね?ってなっちゃいます。
ただ、これはあくまでIRの実務担当の視点であって、経営者はもう少し株主の事を考えていると思います。
「個人株主が出席しやすいように、うちも土曜日にやろう!」
そんな鶴の一声があれば、私だって頑張って準備します。
ただ、IR担当の立場から「当社も土日開催にしましょう!そのほうが個人株主に喜ばれます!」なんて提案はしませんよね。
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※シャンシャン総会:質問もなく、議事進行の拍手だけで終わる株主総会のこと
これも、経営者によっては
「株主総会を株主との議論の場にしよう!」とか
「懇親会を開いて、株主と親睦を深める場にしよう!」とか
「自社のことを知ってもらえる貴重な場だ!」ってなれば
それがIR方針となって、株主総会の運営にも反映されます。
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実際、土日に株主総会をやっている会社というのは、コンシューマー向けのサービスを提供している会社ばかりです。
有名なところで言うと、ファンケルなんかはすごいですよね。懇親会をやるだけじゃなく、会場にキッズスペースもあるそうです。簡単にはマネできません…。
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これから土日開催は増えるのか?
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どれだけ個人株主へ配慮したくても、土日開催のためには弊害が多いな、というのが正直な感想です。
それよりも、今年のコロナの影響もあって、動画の生配信や資料の公表など、株主総会の内容をインターネット上でも見られるようにする会社が増えそうな気がしています。
そのほうが、すべての株主に対して平等ですからね。個人的な見解ですが。
さきほど「シャンシャン総会がいい」なんてことを言ってしまいましたが、なんだかんだIR担当というのは、株主様をおもてなししたい、という想いをもっています。
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無理をしてまで出席するほどではありませんが、もし機会があれば、ぜひ株主総会には足を運んでみてくださいね。独特の緊張感があって面白いですよー!
あと、議決権は郵送でもネットでも行使できるので、ぜひお願いしますね!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次の記事はこちら>>【IRの裏話⑦】IRへ問い合わせる前に知っておくべき9つのこと(前編)
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