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IRの裏話シリーズ第5弾です✿
東証一部上場企業でIR担当を経験し、株主総会の運営にも携わっていた私が、最近よく見るようになった「株主総会のお土産廃止」について語っていきます。
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お土産ってもらえたら嬉しいし、廃止する理由ってよく分かんないよね。
ここ2年くらいでしょうか。
株主総会の招集通知に「今年からお土産はありません」と記載する企業が急増しました。
株主総会に参加しない人には興味のない話題かもしれませんが、年に1回、これを楽しみにしている個人株主の方がいらっしゃるのも事実です。
そこで、表向きの理由と隠れた理由、それぞれをIR担当の視点でお話しします。
お土産廃止をする企業は、株主を軽視しているの?もしかして業績が良くないの?なんて素朴な疑問にもお応えします。
これまでの【IRの裏話】はこちら↓
この記事はあくまで裏話であって、会社公式のものではありません。ですので、「どの会社のことかな?」など詮索することはご遠慮ください。
株主総会のお土産は感謝の気持ち
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実際に、私もIR担当として株主総会の運営に携わっていましたが、足を運んでくださる多くの方がリタイアしたご年配の方や専業主婦の方などでした。
開催地も、本社のある地域ということになりますから、そもそも遠方にお住いの方は足を運ぶのも難しくなってしまいます。
とはいえ、株主総会は年に一度の大イベント!個人株主にとっては、唯一、会社の話を直接聞ける場ですし、会社側にとっても個人株主の皆様とお会いできる貴重な場です。
だからこそ、会社側はわざわざお越しくださった方にはせめてものお礼を…と、お土産を用意しているんです。
お土産の内容はさまざま。自社商品であったり、自社サービスの割引券であったり、焼菓子や商品券であったり…。
せめてお車代くらいに、という気持ちも込められているので、1,000円~3,000円相当のお土産を用意している会社が多いです。
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お土産廃止の表向きの理由
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理由はいろいろあるんですが、一番言われているのは「公平性」です。
先ほどもお話ししたように、株主総会に出席するためには時間や立地の制約があるため、参加できるのはごく一部の株主のみです。
こうなってくると、参加できない株主にとってはお土産がもらえない分「損」をした気分になりますよね。(参加した株主だけ特別扱いしているとも言えます)
この意見は、機関投資家や海外投資家からも出ていて、不公平感のあるお土産ではなく、配当や自社株買いなどでの株主還元を強化してほしいと求めているんです。
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最近では、機関投資家の投資方針を示す「スチュワードシップコード」なんてのが厳しくなってきてるし、とにかく株主の公平性が求められてきてるんです。(スチュワードシップコードについては、長くなるのでここでは割愛しますね)
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お土産目当ての株主が急増
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近年、NISAが始まったり、株主優待目的で投資をする人が増えたりと、何かと個人株主が増えています。
それ自体は決して悪いことではないんですが、株主総会のお土産目当ての株主はちょっと過熱しすぎています。
そもそもは、株主総会のお土産が「意外と豪華だ」「もらわなきゃ損だ」ってとこから始まったんですよ。
お土産情報って、会社からは決してオープンにしていないんですけど、じわじわと口コミで広まってしまい…
・株主総会の受付だけ済ませて、お土産を受け取ったらすぐに帰ってしまう人(株主総会には出席しない)。
・1日に何件も株主総会をはしごして、お土産だけを大量にゲットする人
こんな「お土産めぐり」が流行ってしまったんです。
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私がIRを担当していた会社は、それほど規模が大きい会社でもなく、人気株というわけでもなかったので、例年の株主総会出席者は60人程度でした。(中規模程度の会社としては一般的な人数です)
それくらい、株主総会に興味を持ってる人って少ないものなんですよ。
それが、ある時から「あそこの会社はお土産が豪華らしい」と口コミで広まってしまい、次の年には倍の120人、また翌年には倍の250人…と倍々で膨れ上がっていき、あれよあれよと3年後には400人以上の出席者がくる大規模な総会になってしまったんです。
しかも、その株主の大半がお土産だけもらって帰っていくんですよ…。会場に入ることすらせずに、受付でお土産を受け取ったらサササーッと…。
こっちとしては、何のためのお土産なんだろう?って、いつも疑問に思ってました。
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でもさ、例えば去年は受付でもらえたお土産が、今年から突然「最後までいた人しかもらえません」ってなったら、お土産目当ての人にとってはすごく不愉快じゃない?
「去年はすぐにもらえたのに!」「用事があるから先にちょうだい!」なんてクレームを言う株主が出てくるのは目に見えてたんだよね。
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念のためいくつか会場をおさえてみたり、出席者の予測値を出してみたり…。
とある年には、用意してたお土産が足りなくて、わざわざ後日に郵送したこともあったんだから…。
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本当に株主総会に出席したくて時間通りに来た「善良な株主」が、お土産をもらえず損をすることになるのは絶対嫌だったんだよね。
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お土産目当ての株主による過熱感は本当にひどかったので、どこの会社でも「お土産はなくしてもいいんじゃないか?」って話題に上がってたと思います。
そんな中での「公平性を求める声」。もう流れにのっからない理由がないですよね。
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私もちょっと気になったので、株主総会のお土産を廃止した会社の出席者の変化を調べてみました。すると…
- 三菱商事:6,000人規模から955人に減少(約85%↓)
- 双日:2771人から300人に減少(約90%↓)
- 第一三共:2,000人から500人弱に減少(約75%↓)
- KDDI:2,316人から706人に減少(約70%↓)
想像していた以上に、やばい数字が出ていました…。
人気のある大企業でさえ、お土産をなくした途端に7割~9割の株主が、株主総会に来なくなったんです。
もちろん、お土産目当てだけじゃない株主も中にはいると思いますが、ここまで顕著に減少するのはちょっと驚きを隠せません。
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大事なのは「議決権を行使してもらう」ことで、わざわざ来てもらわなくても大丈夫だから。むしろ、当日の運営がラクになってありがたいかも(笑)
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お土産の廃止は業績に関係ない
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廃止するってことは、IR予算が減ったんじゃないかってちょっと不安だったけど、全然関係ないんだな。
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まさにその通り。
お土産を廃止するのは、業績が悪いからでもなく、お金がないからでもなく、ましてや個人株主を軽視しているわけでもありません。
・株主還元策に公平性を求める声が高まっている
・お土産目当ての株主が過熱しすぎて困っていた
大きくこの2点が影響しているケースがほとんどなので、保有株について心配することは一切ありません。
もちろん、残念なお知らせではあるかもしれませんが、市場全体としても「お土産廃止」の流れになってきているので、仕方のないことだな、くらいの認識でいいと思います。
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株式実務担当者の集まりである全国株懇連合会(全株懇)が2018年10月にまとめた調査によると、株主総会でお土産を実施していない会社の割合は…
2017年:29%
2018年:33%
2019年は4割程度になる見込み
とのことです。
じわりじわりと廃止傾向なのが分かりますよね。
会社によっては、せめてペットボトルのお水くらいは…とか、せめて自社商品のサンプルくらいは…ってところもあると思うので、お土産が完全廃止になることはないと思います。
それでも、自社商品や焼菓子、QUOカードなど人気が出やすい豪華なお土産というのは、今後も廃止傾向になっていくでしょうね。
株主総会の議決権は行使しよう
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ハガキを返信するだけでいいわけだし、今はインターネットでもできるからね。
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…
…ちゃんと行使してね♡
カラス
ちょっと本音が出ちゃいましたが、せっかく1年に1回の株主総会ですから、興味がある人や都合がつく人は足を運んでみる価値があると思います。
IRとしても、わざわざ来てくださった株主様には、丁重におもてなししたいと思っています。
なかなかお目にかかれない経営陣の顔とか見れますし、株主総会の緊張感漂う雰囲気は独特です。
あとは、たとえ株主総会に来られなくても、株主としての責任をもって、議決権をちゃんと行使してくれたら本当に本当に嬉しいです。
大丈夫、と分かっていながらも、毎年の議決権の集計作業はドキドキしますので…。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次の記事はこちら>>【IRの裏話⑥】株主総会はなぜ平日開催ばかりなの?土日にできない理由とは
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