ことり
一部の方にご好評いただいている(?)IRの裏話・第3弾です。
ここまで、東証1部上場企業のIR担当で働いていた経験をもとに、
と株主優待について書いてきました。
カラス
ことり
前回までは、株主優待が新しくスタートするときの話が中心でした。そこで今回は、内容変更や条件変更などの改悪、株主優待の廃止についてお話ししていきます。
優待の改悪って、株価にも影響するビッグニュースです。その時、IRでは何が起こっているのか?という裏側のお話です。
ことり
この記事はあくまで裏話であって、会社公式のものではありません。ですので、「どの会社のことかな?」など詮索することはご遠慮ください。
なんで改悪されると思います?
ことり
カラス
ことり
私もいちお元IRなんだからさ、もう少しオブラートに言ってくれてもいいのに…
優待が改悪されると、株価も下がるじゃん?結果的に、こっちは色々と損なワケよ。
優待目的で買った株なのに廃止になったりしたら、それこそ怒り心頭だね!
カラス
ことり
カラスの言うこともごもっともです。株主優待の内容って、個人投資家からしたらとっても重要ですよね。
それが改悪されるとなれば、株価に影響がでるのは当然のことです。IR担当だって、そんなことは分かってます。
だからこそ、株主優待の内容を変更するときには十分に検討し、発表するタイミングも慎重に決定しています。
特にタイミングには配慮していて、既存株主に十分な売却期間が確保されるか?新規購入を検討している投資家には、情報が行き届き、十分に検討する時間が確保されるか?って、できる限り考えてます。
ことり
そして、タイミング以上に気を遣うのが「どんな内容変更を行うか」です。
株主優待の内容変更を考えるとき
株主優待を、従来のものから何かしら変える、ってとき。そこには、会社として明確な理由があります。
カラス
ことり
それに比べれば、優待を変えるときって、株主への見え方とか、株価への影響とか、けっこう気にするからね。
株主優待をより良いものにしよう!ってときはいいんですよ。株価への影響はむしろプラスですし。
問題は改悪や廃止のとき。会社にはいろいろとあって…
◆業績が厳しくなってきたから、株主優待の予算を減らさざるをえない
◆配当金を減らすくらいなら、まずは優待から廃止しよう
◆優待で思ったようなIRの成果が出ないから、そこまでお金をかけるのはやめよう
といったお金の問題もあれば…
◆株主優待に関する問い合わせが多すぎてIR担当の時間が取られ過ぎている!もっとシンプルな内容にして、問い合わせ数を減らそう
◆優待目的で100株保有の株主がかなり増えたけど、一番大事な株主総会に議決権を行使してくれない。総会運営に支障が出るから、ちょっと優待の条件を厳しくしよう
◆せっかく優待品を送っているのに、メルカリにたくさん出品されたりと転売が目立つ。対策を講じなければならない
などなど、株主優待が経営課題のひとつになってしまい、なくなく改悪しなければいけないってこともあるんです。
必ずしも、業績が悪いから、とか、個人株主を軽視している、とか、そういった理由じゃないときもあるよってことは知っておいてほしいですね。
ことり
カラス
ことり
こんなふうに、裏側では優待の効果って常にチェックしていて、ときどき検討もしてるんだよ~
株主優待は廃止して配当金で利益還元
カラス
ことり
カラス
ことり
業績が悪化していない会社でも、株主優待を廃止することってあるじゃないですか。
公平な株主への利益還元の観点から・・・
配当による直接的な利益還元が適切であると判断し・・・
現行の株主優待制度は廃止させていただくことを決議いたしました・・・
みたいなやつ。
じゃあ、株主優待を廃止したからって、すぐに増配してくれるのか?優待と同じくらいの還元率をキープしてくれるのか?っていうと、まず、絶対ムリです。
なぜなら、株主優待に比べて、配当金を実施するにはとてもお金がかかるんです。ここから、ちょっと数字の話をしますね。
例えばなんですけど、3,000円相当の株主優待を実施しているA社があったとします。この会社の発行株式数は1,000万株です。
発行している株のうち、株主優待の対象となる個人株主は500万株(半分)を占めているとします。(海外投資家は優待品を受け取れませんし、機関投資家は断るところが多いため)
その個人株主500万株のうち、1人当たりの保有数が1,000株くらいが平均だと仮定すると、優待の対象となる人数は5,000人です。
株主優待品にかかるお金をシンプルに考えると【個人株主5,000人×3,000円相当の優待品=1,500万円】になります。
ざっくりですが、この会社の株主優待品の予算は1,500万円ということになります。
で、株主優待を廃止にして、この1,500万円を配当金にまわすとなると…
1人当たりで実施する株主優待とは違って、配当金は1株あたりで計算されます。つまり【予算1,500万円÷1,000万株=1.5円】。1株あたり1.5円の増配ができるという計算です。
ことり
会社としては、同じ金額の利益還元をやっているという計算になるんですが、100株保有の個人株主からしたら、3,000円分の株主優待が、150円の配当金になってしまうんです。
株主優待は個人株主1人あたりだけど、配当金は1株あたりでお金がかかります。いかに、株主優待のコスパが良く、配当にお金がかかるか分かっていただけたでしょうか?
ことり
カラス
ことり
カラス
ことり
株主優待の改悪・廃止は事前に気づけないのか?
カラス
ことり
せめて、予兆というか、予告というか、廃止する雰囲気とか出してくれよ。
カラス
ことり
カラスのように、突然のIR発表に振り回される株主がほとんどだと思います。
株主優待の廃止や改悪って、無風のところに突然の嵐がやってくる感じですよね。
これも、IRとしては難しいところでして…
株主優待の情報って、まぎれもなくインサイダー情報なんですよ。
改悪される・廃止されるってのが事前に漏れてしまって、その情報をもとに株を売買した人は捕まっちゃいます。
だからこそ、決定事項が「突然」発表されるわけなんです。情報を知るタイミングが、みんな平等になるように。
ことり
とはいえ、できるだけ回避したいと思う気持ちも分かります。なので、IRの観点から考える「株主優待の改悪・廃止にかかわる3つの前兆」をちょこっとご紹介しておきます。
株主優待の改悪・廃止にかかわる3つの前兆
(1)業績が下がり基調
たまたま業績が悪かったからって、すぐに優待廃止をする会社は少ないでしょう。
しかし、ここ数年、業績が下落し続けているような会社は、いよいよ株主優待にもメスをいれないと…とIRが検討している可能性は高いです。
ことり
(2)優待銘柄としての過熱感
雑誌で「優待が魅力的な銘柄!」みたいな特集って、よく組まれてるじゃないですか。やっぱり、ああいうところで紹介されると、反響はめちゃくちゃデカイです。
一方で、優待目的だけの株主が急増すると、IRとしてこれまでどおりの運営ができなくなるので、何かしら検討をしなければいけなくなります。優待に条件をつけたり、優待品の金額を下げたり。
ちょっと盛り上がり過ぎでは?優待品が豪華すぎでは?銘柄として目立ちすぎでは?といった会社は、今の優待制度が長く続かない可能性があるな~って思います。
ことり
(3)転売問題
これは、自社商品やサービス券などを優待品にしている会社に多い課題なんですけどね。
優待品が手元に届くころに、ぜひ、メルカリやYahoo!オークションなどをチェックしてみてください。優待品がたくさん出品されている状況があれば、今後、IRは何かしらの対応をとってくる可能性があります。
だって、せっかく株主還元のためにやってる優待品が売られていたら、株主優待をやってる意味がないですから。自社の商品価値を下げることにもなりかねないですし、IR担当から言わせれば不快でしかないです。
ことり
当時サンリオの株主優待では、株主限定商品がもらえたんです。オリジナルのキティちゃんグッズなどは人気があり、ファンも多かったです。それなのに、翌年にはサンリオショップで使える優待券に変更されてしまいました。
改善とも改悪とも言えるような変更で、会社は「当社商品の選択範囲を広げることにより、投資魅力の一層の向上を目的」と公表しています。
しかし、メルカリには株主優待品が大量に出品されており…少なくとも、IRとしての課題だったことは確かでしょう。
サンリオに限らず、最近では、株主優待券に株主番号を記載することで転売対策をとってる会社も増えています。だからといって、必ずしも優待が改悪されるわけではありませんが、転売はIRとしても頭を悩ませる問題なんです。
株主優待ってIRにとっても大仕事
ことり
カラス
ことり
カラス
ことり
「締め切りを過ぎてしまったんですが、まだ間に合いますか?」とか。(締め切りすぐなら、なんとかなります)
「入院していて、1ヵ月間、郵便物をチェックできなかった。今から申し込むから優待品を送ってくれ」とか。(さすがに難しいよぉ…)
「いきなり荷物を送ってきやがって!(怒)受け取ったらお金がかかるっていう詐欺だろう!どこの会社だ!」って受け取り拒否で戻ってきたりとか。(いやいや、あなたが申し込んだ優待品ですよ?)
「この優待品はいらないから、同じ金額くらいの金券に変えてもらえないかしら?」とか。(そんな不平等なことできませんけど)
ことり
カラス
ことり
含み損を抱えている人も多いから、申し訳ない気持ちでいっぱいだったしね。丁寧に対応するよう心掛けてたよ。
カラス
今回はこの辺でおしまいです。
前回の「我が社が株主優待を新設することになったワケ」と「株主優待の内容はどうやって決めてるの?」と合わせて、株主優待のことは色々ご紹介できたんじゃないかなって思います。
もし、他にも気になることがあれば、記事下のコメント欄やTwitterからお気軽にどうぞ♪ご質問や感想など大歓迎です!
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次の記事を読む>>【IRの裏話④】四季報からの取材内容って?おすすめ活用法も
▼随時更新♪「IRの裏話」記事一覧はこちら